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2023/4/17
インボイス制度が始まると、免税事業者との取引では消費税の控除を受けられません。特に下請に発注することが多い建設・建築業では、控除を受けられないのは非常に悩ましい問題ではないでしょうか。そこで、免税事業者との取引の見直しを検討している企業は少なくないでしょう。
しかし、下請の免税事業者に対して取引の見直しや再交渉を行う場合、独占禁止法や下請法、建設業法などに抵触する可能性があります。
この記事では、インボイス制度と独占禁止法や下請法、建設業法の関係について解説しています。どのような場合に法に抵触してしまうのかを把握して、インボイス制度への対応を万全にしていきましょう。
インボイス制度について、「難しくてよくわからない」と感じている方は、こちらの記事を参考にしていただくと、インボイス制度の概要を把握できます。
よくわからないまま放置しておくと、元請の方も損をする可能性があります。その理由も記載しておりますので、興味がございましたらぜひご一読くださいませ。
建築・建設業ならでは!インボイス制度の影響で元請も損をする!?そして何をすれば良いのか?をわかりやすく簡単に図解入りで解説!
インボイス制度と独占禁止法や下請法、建設業法の関係を知るために、まずはインボイス制度がどのような制度なのか情報を把握しておきましょう。
インボイス制度の要点は、以下の通りです。
まずはインボイス制度がどのようなものなのか、把握しておきましょう。インボイス制度とは、簡単にいうと「仕入税額控除」を受けるためにインボイスの発行を条件とする制度です。
仕入税額控除とは、取引の際に発生する消費税の重複を解消するための仕組みのことです。
建設業の取引を例に考えてみましょう。工事を発注したい業者Aと、元請の業者B、下請の業者Cの関係は以下のようになります。
業者Aが業者Bに支払いをするとき、取引価格に消費税を含めます。業者Bは受け取った分の消費税を、業者Aの代わりに納税しなくてはなりません。しかし、業者Cに工事の一部を委託したい場合、業者Cに支払う下請代金と同時に消費税も支払うことになります。つまり、一連の工事の取引で支払うべき消費税が重複している状態です。
このようなときに、消費税の課税額を受け取った消費税と支払った消費税の差額となるように調整するのが「仕入税額控除」です。建設業は特に下請に発注することも多いので、元請の消費税負担はどうしても大きくなってしまいます。それを防ぐため、このような措置が設けられていました。
しかし、インボイス制度の実施により、仕入税額控除を受けるにはインボイスの発行が条件となります。インボイスとは正式名称を「適格請求書」といい、売り手に対して正確な適用税率や消費税額等を公表するためのものです。
インボイス制度が始まると、仕入税額控除を受けるためにはインボイスの発行が必要になります。インボイスを発行できるのは課税事業者のみであり、免税事業者はインボイスの発行が認められていません。つまり、免税事業者との間の取引では控除を受けられないのです。
そこで、これまで取引している先を見直そうと考えている業者も少なくないでしょう。しかし、インボイス制度の実施後、取引先が課税転換しないことを理由に取引を中止したり、取引価格を下げたりすると、独占禁止法や下請法・建設業法に触れる恐れがあります。
公正取引委員会によると、インボイス制度を契機に取引を見直そうと考えている場合、独占禁止法や下請法に抵触する可能性があります。これらの法律は、健全な取引を推進し、弱い立場にある業者を守るために策定されたものです。
独占禁止法と下請法・建設業法は、それぞれ以下のような内容の法律です。
いずれの法律も、業者の規模や市場での立ち位置などで弱い立場にある事業者が不利益を被らないように定められました。インボイス制度の実施でこれまでの取引を見直そうと考えている場合は、上記の法律に違反しないように注意する必要があります。
インボイス制度について、以下のような対応を取ると独占禁止法や下請法に抵触する可能性があります。
免税事業者との取引自体をやめて、新しく課税事業者との取引を始めようと考えている方も多いのではないでしょうか。取引をやめること自体は両者の自由であり、法律に違反するものではありません。
しかし、インボイス制度を契機に一方的な理由で取引を解消したり、免税事業者が負担していた消費税分も支払えないほどの低い価格で取引を継続しようとしたりして、協議の結果として取引中止に至った場合は独占禁止法違反となります。
取引のある免税事業者に対して、課税事業者への転換を求めたのに価格を据え置きにすることは下請法違反です。価格の据え置きをするということは、すなわち免税事業者が消費税分を請求できなくなる対応であるため、取引の上では法的に問題がある対応となります。
免税事業者からすれば、それまで非課税だった取引が課税されるようになってしまうため、取引の価格を上げてもらわないと厳しい状況となります。
しかし、その価格交渉に応じず、これまでと同じ価格での取引を行おうとした場合は下請法の「買いたたき」に当てはまります。
インボイス制度の仕入税額控除を受けるために、取引相手に課税事業者への転換を強要するのは独占禁止法違反となります。要請自体は問題ありませんが、取引先が課税転換を行わなければいけない状況に追い込む行為は禁止されています。
例えば、
などのように、一方的な通告により課税事業者への転換を強要するのは違法です。
さらに、免税事業者に対して何度も課税転換を促す行為も独占禁止法違反となる可能性があります。
独占禁止法や下請法違反にならないようにインボイス制度に対応するなら、以下のポイントを心得ておきましょう。
独占禁止法や下請法はあくまでも公正な取引を推進するための法律なので、双方が合意のうえ、不利益が生じない取引を求めるのであれば問題ありません。
あくまで強制することが違反になるのであって、免税事業者に課税転換を求めること自体は違法ではありません。とはいえ、「課税転換しないと取引価格を下げる」「これに応じない場合は取引自体を取りやめる」などと条件を設けて、免税事業者が課税対応をせざるを得ない状況に追い込むのはやめましょう。
両者の合意は、契約書を締結することがもっとも簡単な方法です。お互いに適格事業者として申請を行わないと消費税分を請求できないことを伝えれば、取引相手も納得しやすいでしょう。協議のうえに双方が合意し、契約書に捺印をすればインボイス制度に関連する契約は成立します。
もし免税事業者から「対応が難しい」と返事があれば、課税対応の要請はするものの、期日を設けてそれまでに回答してもらうようにするとよいでしょう。
インボイス制度には経過措置も設けられているので、今すぐ対応しなくても問題はありません。しかし、2023年より6年後には完全にインボイス制度の実施が開始されます。経過措置の期間中に、きちんと対応できる準備を進めておきましょう。